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福岡地方裁判所 昭和56年(ワ)2216号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因1の事実<編注・原告らがマンション居住者である事実>は原告ら居住地附近の状況を除いて当事者間に争いがなく、原告ら居住地附近の状況については、<証拠>を総合すれば、原告らの居住地は、福岡市内屈指の繁華街である天神町界隈から徒歩数分の距離にあり、附近に中央区役所ビルや「喰いだおれ」という飲食店があるほか、喫茶店や住宅マンション等各種ビルが混在する、純住宅地域というより、準商業地域ともいうべき地域であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二請求原因2の事実<編注・新築工事が始まつた事実>は、当事者間に争いがない。

三請求原因3の事実については、原告から被告に対し、本件ビル建築工事に伴う騒音・震動による被害状況とその善処方の要請を内容とする書面が送付されたことは、当事者間に争いがない。よつて、その余の事実につき判断する。

<証拠>を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1 本件ビル建築工事は、昭和五六年四月から昭和五七年七月まで約一年三か月の期間を予定して着工され、昭和五六年六月初旬からのビル自体の建築に先立つて、敷地内の旧家屋の解体作業が行われた。右解体及び附随作業は、約二〇日間程度を要したが、解体工事自体が行われたのは、三日ないし四日であつた。

2 本件ビル建築の基礎工事は、昭和五六年七月中に着工され、約九〇日の予定で行われたが、その作業態様・方法等は、次のようなものであつた。

(一) 作業時間は、平日は午前八時から午後六時まで、日曜日、祝日は原則として休日とする。なお、この間も、大型車の工事現場進入時間は、午前九時から午後五時までである。

(二) 基礎工法については、被告は、従来のコンクリートパイル打込工法に代えて、騒音・震動の少い、ドリルで穴を掘り、コンクリートを流し込んで杭を作る無振動工法(アースドリル工法)によつている。

(三) その他のコンクリート打設作業においても、作業中のミキサー車は、通常行われているような路上駐車を避け、騒音減少の為、本件建物内に駐車して作業している。

四<証拠>中には、原告らは、昭和五六年六月以降、被告の右解体工事によつて舞い上る悪臭を伴う微塵が原告らの居室に侵入し、折柄の酷暑にかかわらず、外扉や窓を閉鎖せざるをえず、窓を閉めてもすき間から微塵が侵入して、その清掃に悩まされたほか、基礎工事の騒音・震動によつて安静、安眠を妨害され、とくに仕事上帰宅の遅い者は、早朝の安眠を妨害されたことを強く訴える部分がある。もつとも、この点に関しては、右<証拠>のその余の部分によると、原告らの右居室は、そのいずれもが、七階建てのビルの中の、本件建築工事の現場とは廊下を隔てた反対側にあることが認められるので、右の、本件建築工事による微塵侵入、騒音等の被害を強調する部分は、それ自体いささかならず誇張されている感を払拭できないけれども、それにしても、昭和五六年六月以降、本件工事に伴う微塵、騒音、震動により、原告らが、その程度、態様はともあれ、その住居内における平穏・快適な生活を何ほどかでも阻害されたことは、否定することができない。

しかし、そのことから、直ちにこれを違法なものとするのは適当でなく、例え原告らが、右微塵・騒音・震動によりその生活利益を毀損されたとしても、それが、健全な社会通念上、一般人において社会生活を営むうえで受忍するのが相当と認められる限度を超える場合にはじめて、違法となるものと解するのが相当である。

五そこで、以下、被告の本件ビル建築工事の施工が右受忍限度を超えたものであつたか否かにつき検討する。

1 既に考察したように、前記微塵・騒音・震動による生活侵害については、それを強調する<証拠>部分は、それ自体誇張が甚しいことが明らかで、原告らが、右騒音・微塵等によつて何ほどかの困惑、不快を感じたとしても、それらが、果して社会生活上受忍すべき限度を超えていたかについては、むしろ疑問を容れる余地が大きい。

2 なお、<証拠>中には、これに加えて、右騒音・震動等によつて、原告らのなかに神経衰弱症、身体機能障害を生じた者や高血圧状態を招来した者がいる旨供述する部分があるが、ことに前記騒音・震動等との因果関係をいう点において、それ自体不自然で、たやすく信用することはできない。

3 かえつて、<証拠>によれば、解体された旧家屋は、いずれも木造家屋であるところ、被告が直接旧家屋の解体作業にあたつた日数は、たかだか三日ないし四日程度であつたことが認められ、かつ、かような木造家屋の解体作業のうち、最も微塵等の被害が生ずべき家屋引倒しの作業は、極めて短期間で行われるのが常態であることをもあわせ鑑みれば、右解体作業の間微塵等による原告らの生活侵害があつたとしても、それは一時的なものであつたと認めるのが相当である。

4 さらに、建設用重機械・車輛等の使用による騒音・震動等の被害についても、被告は、作業時間を前記認定のとおり午前八時から午後六時までに限定し、とくに大型車輛の出入については午前九時から午後五時までに制限するなど、本件のようなビル建築工事としてはかなりの留意をしていること、基礎工事の工法についても、前記認定のとおり現在では最高水準の無震動工法を採用して、騒音・震動の発生を極力防止しようと努めていること、基礎工事に要する日数も、約九〇日と騒音発生としては一時的・短期間にとどまることに加えて、本件工事現場地域が、平穏・閑静な純住宅地域というよりも、近隣にビル建築の相次ぐ、準商業地域で、それに伴う騒音・震動についても、当該地域の住民としては、比較的に高い水準で受忍すべき限度のあることを認めざるをえないことをあわせ考えれば、被告の行為によつて発生した各種微塵・騒音・震動は、いずれも原告らの社会生活上受忍すべき限度を超えていたとは認めがたい。

5 また、<証拠>によれば、被告は、本件ビル建築に関し、周辺住民の同意をとりつけるべく努力した事実が認められる。

六結論

以上の事実によれば、被告の本件ビル建築工事の施工は、健全な社会通念上、一般人において社会生活を営むうえで受忍するのが相当と認められる限度を超えていないものというべきである。

(篠原曜彦)

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